【FP監修】個人年金保険に入るなといわれる理由は?メリット・デメリット、リスク、利率も解説
個人年金保険について調べていると、個人年金保険には入るなという意見を見かけることがあり、加入を検討している方は判断に迷うことがあるでしょう。
この記事では、個人年金保険に入るなといわれる理由と、メリット・デメリット、リスクや利率などを解説します。
記事監修者
SYN Group 株式会社
菅原 慎
個人年金保険の基礎知識
加えて、2019年に金融庁が発表した「老後の資金が2,000万円不足する」という報告書が話題になったのをきっかけに、私的年金に興味を持つ人が増えてきています。
個人年金保険は私的年金の一つで、公的年金にプラスして老後の資金を蓄えることができます。しかし一方で、個人年金保険はおすすめしないとか、入るなといった意見も見られます。
まずこの章では個人年金保険の基本的な仕組みを解説し、次章以降で入るなといわれる理由や加入するメリットなどを解説していきます。
個人年金保険と国民年金の仕組み・相違点
個人年金保険と国民年金の大きな違いは、国民年金が強制加入であるのに対して、個人年金保険は任意加入であるという点です。老後の備えをより手厚くしたい人が、自主的に加入する保険となります。
国民年金は日本年金機構が運営しますが、個人年金保険は民間の保険会社が運営します。個人年金保険は種類が豊富で、受取額が決まっているローリスクな商品もあれば、元本割れリスクのあるハイリターンな商品もあります。
受取期間と運用方法の種類
個人年金保険はさまざまな商品があり、運用方法もそれぞれ違います。定額個人年金保険・変額個人年金保険という分類があり、さらにどの通貨で運用するかによって、円建て・外貨建てに分類されます。
つまり運用方法の種類としては、定額か変額か、円建てか外貨建てかによって、4種類に分類されるということです。
【受取期間による個人年金保険の種類】
- 確定年金
- 有期年金
- 終身年金
- 夫婦年金
【運用方法による個人年金保険の種類】
- 円建て定額個人年金保険
- 円建て変額個人年金保険
- 外貨建て定額個人年金保険
- 外貨建て変額個人年金保険
確定年金
確定年金は、受取期間中に受取人が死亡しても、遺族が引き続き年金を受け取ることができます。
確定年金は、被保険者が長生きするかどうかに関わらず、おおむね決まった額の年金を受け取れるのが特徴です。リターンがあらかじめはっきりしているので、将来設計を立てやすい年金だといえます。
有期年金
有期年金には保障期間付きのものがあり、これなら保証期間内に限り、被保険者の死亡後も遺族が年金を受け取ることができます。
終身年金
終身年金も有期年金と同様保障期間付きのものがあり、保障期間内なら被保険者の死亡後遺族が年金を受け取れます。
夫婦年金
定額個人年金保険
変額個人年金保険
円建て個人年金保険
外貨建て個人年金保険
個人年金保険以外の私的年金一覧
個人年金保険以外の私的年金には以下のようなものがあります。
このうち、厚生年金基金・確定給付企業年金・企業型確定拠出年金はサラリーマンを対象としており、国民年金基金は自営業者を対象としています。個人型確定拠出年金(iDeCo)はサラリーマンでも自営業者でも利用可能です。
【個人年金保険以外の私的年金一覧】
- 国民年金基金
- 厚生年金基金
- 確定給付企業年金
- 企業型確定拠出年金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人年金保険の利率を計算シミュレーション
①円建て個人年金保険の利率
支払った保険料の総額720万円に対し、受け取る年金の総額は約762万円となり、返礼率は約106%となります。
円建てはローリスクなのがメリットですが、30年間積み立てて運用益は約40万円ほどしかなく、これが個人年金保険に入るなという意見が出てくる要因の一つとなっています。
払った保険料の総額 | 720万円 |
受け取る年金の総額 | 約762万円 |
返戻率 | 約106% |
②外貨建て個人年金保険の利率
外貨建ては為替リスクなどがあり円建てよりハイリスクですが、返礼率は円建てよりかなり高くなる傾向があります。
支払った保険料の総額 | 300万円(約28,000ドル) |
受け取る年金の総額 | 約552万円(約48,600ドル) |
返戻率 | 約184% |
③変額個人年金保険の利率
変額個人年金保険の資産は「特別勘定」という名前で、保険会社が投資信託などで運用しています。特別勘定の運用実績は各保険会社が公開しているので、これを参考に判断していくこともできます。
個人年金保険に入るなといわれる理由は?
加入を検討している時に入るなという意見を見ると判断に迷いますが、個人年金保険はメリットとデメリットがあるので、デメリットもきちんと見ておくことが大切です。
そこでこの章では、個人年金保険をおすすめしない、入るなといわれる主な理由を5つ挙げて解説します。
①インフレにより年金額が目減りするおそれがある
個人年金保険は数十年後に年金を受け取るので、たとえ受取額があらかじめ決まっていても、その額が今現在と同じ価値があるかどうかは分かりません。
特に日本は諸外国に比べてインフレ率の低い状態が続いているので、将来的に諸外国に追いついてインフレ率が上がる可能性もないとはいえません。
ただし、日本のような先進国で、年金額が大きく目減りするほどのインフレが起こることは非常にまれです。
さらに、数十年後のインフレ率を正確に予想して計画を立てるのは困難なので、個人年金保険の加入に際しては、インフレ率をあまり心配しすぎても仕方がない部分はあります。
②途中解約による元本割れのリスクがある
払った掛金に対する返戻金の割合(返戻率)は、加入期間が長いほど高くなります。具体的な返戻率は商品によって違いますが、一般に10年以上くらい加入するとほぼ100%に近くなり、逆に1,2年など非常に短い場合は50%以下になることもあります。
個人年金保険は数十年という非常に長い期間加入するので、年月が経つうちに加入当初は予期しなかった理由で解約したくなることもあります。
個人年金保険に加入する際は、今の仕事を失ったり転職したりしても掛金を払い続けられるか、他にもっと良い投資商品を見つけた時にどうするかなど、途中解約の可能性も考慮しておきましょう。
③死亡保障の面が手薄である
しかし、個人年金保険は公的年金と違って死亡保障の面では手薄な商品が多く、おすすめしないという意見もよく見られます。例えば確定年金でないタイプの個人年金保険では、一般に加入者が死亡すると年金の支払いも終了します。
④払込期間の割にリターンが少ない
がんばって長年支払い続けても結局あまり得しないというのは、個人年金保険に入るなという意見が出てくる理由の一つです。ただし、それでも銀行預金に入れっぱなしにしておくよりかは良いリターンが得られます。
リターンにこだわるなら外貨建ての個人年金保険などを選ぶ手もありますが、その分リスクが高くなります。
個人年金保険はあくまで老後に備えるための商品であって、お金を増やすという面ではあまり期待しないのが正しい活用法だといえます。リターンにこだわるなら、個別株投資や投資信託といった他の金融商品を検討すべきです。
⑤保険会社が破綻すると損失を被る
例えば、バブル崩壊後の2000年前後に千代田生命など数社が破綻しており、さらにリーマンショックが起こった2008年に大和生命が破綻しています。
保険会社が破綻する原因はそれぞれですが、不況や経済的混乱が起こった際に、ハイリスク・ハイリターンな商品が重荷になって破綻するケースが多いです。
保険会社が破綻しても、個人年金保険は他の会社が引き継ぐなどして維持されるので、個別株のように紙くずになるわけではありません。
しかし、運用方針の転換などにより、予定利率や返戻金といった保障内容は多かれ少なかれ削減されます。特に個人年金保険は貯蓄性が高く加入期間が長いので、その分破綻した時の損失が大きくなることがあります。
入るなといわれる個人年金保険のメリット
しかし、個人年金保険にはもちろんメリットもあるので、メリット・デメリット両面を見て判断することが大切です。
この章では、所得控除や貯蓄性の観点から、個人年金保険のメリットを見ていきます。
①所得控除による節税効果が期待できる
支払った保険料が少ない場合は全額控除されますが、増えるにしたがって控除される割合が減っていきます。保険料が8万円を超えると控除額が合計6万8千円となり、これ以上控除額は増えません。
個人年金保険というと返戻率に目が行きがちですが、所得控除のメリットも意外に大きいことを理解しておきましょう。
【生命保険料控除の所得税の控除額】
保険料(年間) | 控除額 |
2万円以下 | 全額 |
2万円超から4万円以下 | 1万円+保険料の半額 |
4万円超から8万円以下 | 2万円+保険料の4分の1 |
8万円超 | 4万円 |
【生命保険料控除の住民税の控除額】
保険料(年間) | 控除額 |
1万2千円以下 | 全額 |
1万2千円超から3万2千円以下 | 6千円+保険料の半額 |
3万2千円超から5万6千円以下 | 1万4千円+保険料の4分の1 |
5万6千円超 | 2万8千円 |
税制適格特約を満たせばさらにお得
ただし、個人年金保険料控除を受けるためには税制適格特約という条件を満たす必要があり、必ずしも控除できるわけではないのが注意点です。
税制適格特約の条件は以下のとおりです。この条件によると、例えば一時払いで保険料を支払った場合などは、税制適格特約を満たせないことになります。
【税制適格特約の条件】
- 年金受取人が本人かその配偶者
- 年金受取人は被保険者と同一
- 保険料の払い込み期間が10年以上
- 年金の受け取り開始が60歳以上
- 年金の受け取り期間が10年以上
②貯蓄が苦手でも老後資金を貯められる
個人年金保険は途中で解約するための手続きが煩雑で、しかも積み立てた額の全額は戻ってこないのが一般的です。これなら貯蓄が苦手な方でも、半ば強制的に老後資金を貯めることができます。
ただし、個人年金保険はあくまで保険商品であって、掛金を貯金しているわけではないことは理解しておく必要があります。
分散貯蓄の検討もおすすめ
個人年金保険のリスクを減らしたい場合は、いくつかの投資商品に分散貯蓄してみるのもおすすめです。分散貯蓄なら、投資信託などの元本割れリスクのある商品も活用しやすくなります。
最近はつみたてNISAやiDeCoといった税制が優遇されている商品もあるので、こういったローリスクなものから始めてみるのもよいでしょう。
個人年金保険に向いている人・不向きな人
また、個人年金保険は途中で解約しても解約返戻金を受け取れます。保険料が払えなくなったり、急にまとまったお金が必要になる可能性を考慮したい人は、個人年金保険が向いているといえます。
【個人年金保険に向いている人】
- 運用は保険会社に任せたい人
- 途中で解約する可能性がある人
iDeCoの活用も検討すべき
iDeCoのメリット・デメリット
iDeCoのメリット
iDeCoは運用方法の選び方によって、ローリスクにもハイリスクにもできます。元本割れのリスクを負ってリターンを高めたい場合は投資信託を選べばよいですし、手堅く運用したい場合は定期預金を選ぶことができます。
節税効果が高いのも、iDeCoのメリットの一つです。掛金は全額控除で、売却益も運用期間中は非課税になります。さらに、受け取った年金には公的年金等控除や退職所得控除が適用されます。
【iDeCoのメリット】
- 自分に合った掛金・運用方法を選べる
- 節税効果が高い
iDeCoのデメリット
iDeCoの掛金の上限額は、自営業者が月6万8千円なのに対して、会社員は2万円前後となっています。会社員の方は厚生年金が手厚いので、iDeCoはあくまで補助的に使うことになります。
また、掛金の変更は年1回なので、急な収入の減少に対応しにくい面もあります。
【iDeCoのデメリット】
- 手数料がかかる
- 会社員は掛金の上限があまり高くない
- 掛金の変更は年1回しかできない
iDeCoに向いている人・不向きな人
逆にこの条件に当てはまらない人は、iDeCoに向いていない可能性があります。
【iDeCoに向いている人】
- 金融商品に詳しい人
- 途中解約する予定がない人
- 節税効果を重視したい人
- 自営業者・フリーランスの人
個人年金保険の利率を高めるコツ
もちろん、何のデメリットもなく利率だけを高める方法はないので、利率アップに対するリスクを考慮したうえで、総合的に判断することが大切になります。
外貨建て個人年金保険に加入する
ただし、外貨建ては為替手数料や円高による為替差損など、円建ての保険にないリスクもあります。外貨建て個人年金に加入する際は、これらのメリットとデメリットを考慮して判断しましょう。
変額個人年金保険に加入する
ただしこれはあくまで運用実績によるので、かえって利率が下がってしまうリスクがあることを理解しておく必要があります。
繰り下げ受給を行う
ただし、受け取る年金額が増えるとその分課税収入が増えるので、国民健康保険の支払い額などが増えることになります。また、終身年金や有期年金の場合、亡くなる時期によってはかえって受給額が減ることもあるので注意が必要です。
繰り下げ受給を行う場合は、こういったデメリットも考慮したうえで、最終的にどれくらい得になるのか考えて判断する必要があります。
個人年金保険の保険料を節約する方法
しかし、個人年金保険には解約せずに保険料を安くする方法がいくつかあり、これらの方法を知っておけば不安を軽減できます。
保険料を一時払いや全期前納で支払う
また、全額をまとめて保険会社に預けて、そこから毎月の保険料を支払う「全期前納」という方法もあります。全期前納は一括払いより保険料がやや高くなりますが、代わりに個人年金保険料控除を毎年受けられるメリットがあります。
一時払いや全期前納は、退職金などのまとまったお金で活用するのが効果的です。
保険料を一度に全額支払うことができない場合は、一年分や半年分をまとめて支払うこともできます。これだと一時払いほどの節約効果はありませんが、毎月支払うよりは少し得になります。
保険料をクレジットカード払いにする
一部解約する
一部解約しても契約は継続するので、ちゃんと老後に年金を受け取ることができます。ただし、もちろん受け取れる額は減るので、保険料を節約できるメリットと天秤にかけて判断する必要があります。
払済保険へ変更する
払済保険とは、解約返戻金を保険料に充てて、その後の保険料の支払いを止めることです。今後保険料を支払わなくて済むうえ、ちゃんと年金を受け取ることができます。
もちろん受け取れる年金額は減るので、メリットとデメリットを天秤にかけて判断することが大切です。
払済保険への変更は、基本的に告知や診査なしで行えるのがメリットです。ただし個人年金保険の場合は、税制適格特約があると払済保険に変更できないこともあるので、契約内容を確認しておく必要があります。
また、加入後一定の期間(例えば10年など)が経つまで、払済保険に変更できないといった条件がついている場合もあります。
自動振替貸付を利用する
自動振替貸付には利息がつくので、普通に保険料を支払うより割高になります。また、貸付できる解約返戻金がない場合は利用できません。
自動振替貸付に充てた分は、最終的に支払われる年金額から差し引かれます。建て替えた保険料は後で返済することもできます。
外貨建て個人年金保険に加入する
有期年金に加入する
まとめ
- 確定年金・有期年金・終身年金・夫婦年金に分けられる
- 円建てと外貨建てがある
- 定額型と変額型がある
- 外貨建てはハイリターンだが為替リスクに注意
- 変額型は運用実績により年金額が変わる
個人年金保険に入るなといわれる理由
- インフレにより年金額が目減りするおそれがある
- 途中解約による元本割れのリスクがある
- 死亡保障の面が手薄である
- 払込期間の割にリターンが少ない
- 保険会社が破綻すると損失を被る
入るなといわれる個人年金保険のメリット
- 所得控除による節税効果が期待できる
- 貯蓄が苦手でも老後資金を貯められる
個人年金保険に向いている人
- 運用は保険会社に任せたい人
- 途中で解約する可能性がある人
iDeCoに向いている人
- 金融商品に詳しい人
- 途中解約する予定がない人
- 節税効果を重視したい人
- 自営業者・フリーランスの人
個人年金保険の利率を高めるコツ
- 外貨建て個人年金保険に加入する
- 変額個人年金保険に加入する
- 繰り下げ受給を行う
個人年金保険の保険料を節約する方法
- 保険料を一時払いや全期前納で支払う
- 保険料をクレジットカード払いにする
- 一部解約する
- 払済保険へ変更する
- 自動振替貸付を利用する
- 外貨建て個人年金保険に加入する
- 有期年金に加入する
個人年金保険に入るべきか迷っている方は、保険のプロに相談してみるのがおすすめです。入るなという情報を信用すべきかどうかも含めて、豊富な知識と経験に基づいたアドバイスがもらえます。
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