【FP監修】企業型DC(企業型確定拠出年金)とは|仕組みやデメリット、iDeCoとの違いを解説
この記事では企業型DC(企業型確定拠出年金)について、仕組みからデメリットまでプロがわかりやすく解説します。
「企業型DCはデメリットしかないって聞いたけど本当かな」
「老後資金の形成に興味がある」
という方は、ぜひ参考にしてください。
記事監修者
ファイナンシャルプランナー
綾目脩志
企業型DCとは?仕組みを解説
企業型DC(企業型確定拠出年金)とは、公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に、企業が従業員のために設置する年金制度の1つです。
毎月一定の金額を積み立て(拠出)し、従業員はその資産を自ら運用することで、退職後のための資産形成ができます。
また企業型DCは上限額が以下のように決められており、この上限額を超えて積み立てることは認められていません。
- 他の企業年金がある場合は、月額27,500円
- 他の企業年金がない場合は、月額55,000円
ただし、企業型DCにおいては、企業が運用の結果を保証するわけではなく、従業員が運用リスクを負担することになります。
したがって、従業員は運用方針を決める際に、自身のリスク許容度を考慮して商品や毎月の掛金を決定する必要があります。
企業型DCとiDeCoの違い
確定拠出年金には、
- 企業型DC(企業型確定拠出年金)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
の2種類があり、以下の4つの違いがあります。
- 掛け金の上限額
- 手数料
- 年末調整
- 商品選びの自由度
それぞれ解説します。
掛け金の上限額
企業型DCとiDeCoは、掛け金の上限額が異なります。
iDeCoの上限額は、以下の通りです。
被保険者 | iDeCoの掛け金上限額 |
---|---|
第1号被保険者(自営業者等) | 月額68,000円 (年額816,000円) |
第2号被保険者(会社員・公務員等) | 月額12,000円〜23,000円 (年額144,000円〜276,000円) |
第3号被保険者(専業主婦・主夫) | 月額23,000円 (年額276,000円) |
ただし、第2号被保険者(会社員・公務員等)の場合、企業年金の加入状況により上限額が変わるため、ご自身の状況を確認して上限額を把握しておきましょう。
次に企業型DCの上限額は、以下の通りです。
企業年金の有無 | 企業型DCの掛け金上限額 |
---|---|
他の企業年金がある場合 | 月額27,500円 (年額330,000円) |
他の企業年金がない場合 | 月額55,000円 (年額660,000円) |
上記の表から分かるように、会社員の方の場合、基本的には企業型DCの方が上限金額は高くなります。
そのため勤務先が企業型DCを導入している場合は、積極的に活用すると良いでしょう。
手数料
企業型DCとiDeCoを比較すると、企業型DCの方が手数料は安いです。
なぜなら、iDeCoの手数料は個人負担となるからです。
具体的には、加入時と移換時に2,829円、掛け金拠出時に毎月105円の手数料が発生します。
一方、企業型DCの手数料は、企業が負担する場合が一般的です。
企業型DCを提供する場合には、運用管理費用や商品毎の販売手数料を含む手数料が発生しますが、企業がこれらを負担することで、従業員は手数料がかかりません。
したがって、
「老後資金の確保のために、手数料を少しでも安くしたい」
という方は、企業型DCを利用すると良いでしょう。
年末調整での手続き
企業型DCとiDeCoでは、年末調整の手続きにも違いがあります。
iDeCoの場合、金融機関から送られてくる「小規模企業共済等掛金控除証明書」を年末調整時に提出する必要があります。
それに対して企業型DCは、手続きのほとんどを企業が行ってくれるため、従業員が手続きをする必要はありません。
そのため、
「年末調整は面倒だから、できる限り手間を省きたい。」
という方にも、企業型DCがおすすめです。
商品選びの自由度はiDeCoのほうが高い
商品選びの自由度に関しては、企業型DCよりもiDeCoの方が圧倒的に高いです。
なぜなら、企業型DCでは自分で運営管理機関を選べないからです。
企業が運営管理機関を選定して従業員に提示するため、従業員は選択肢を持ちません。
実際に企業型DCに加入している私の知人は、
「気になっていた手数料の安い商品を選べなかった…」
と言っていました。
ただし、自分で運営管理機関を選択することはできませんが、商品は自分で選択することができます。
そして商品を選ぶ際には、以下のようなポイントを考慮することが大切です。
- 運用成績
- 手数料
- リスク許容度
これらのポイントを考慮して、株式型ファンドや債券型ファンド、混合型ファンド、金融商品先物取引などの中から、自分に合った商品を選択することが重要です。
企業型DCに入らないほうがいい?3つのデメリット
企業型DCは老後資産の形成のために有効な制度ですが、一部では入らないほうがいいと言われています。
その理由は、企業型DCには3つのデメリットがあるからです。
- 原則60歳まで掛金の引出しができない
- 元本割れのリスクがある
- 自分で運営管理機関を選べない
それぞれ解説します。
原則60歳まで積み立てたお金の引き出しができない
企業型DCでは、原則60歳まで掛金の引き出しができません。
なぜなら、企業型DCは60歳以降の老後資産を形成するために、国が税制上の優遇を設けている制度だからです。
そのため、持ち家を購入する際の頭金にしたり、子供の学費に使ったりすることは難しいでしょう。
また、加入期間が10年に満たない場合は、受け取れる年齢が以下のように変化するため注意してください。
通算加入期間 | 受給開始年齢 |
---|---|
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1ヶ月以上2年未満 | 65歳 |
ただし、人は目の前にお金があるとどうしても使いたくなってしまうため、強制的に掛金を引き出せなくすることで、老後資産を確実に形成できるとも言えます。
原則60歳まで掛金の引き出せないのはデメリットとして捉えられがちですが、あえてメリットとして捉えることで、ストレスなく資産形成できるでしょう。
元本割れのリスクがある
企業型DCにおいては、企業が運用の結果を保証するわけではなく、従業員が運用リスクを負担することになるため、元本割れの可能性があります。
実際に私の知人は、
「企業型DCで年金を運用していたが、ある年に株式市場が暴落したことで、元本割れをしてしまった…。大きなリスクを取りすぎたことを後悔している。」
と言っていました。
もちろん、企業型DCは原則60歳まで引き出せない長期投資になるため、収益率が安定しやすい傾向があります。
しかし、企業型DCに参加する場合には、運用リスクについて十分に理解し、運用方針を確認することが重要です。
自分で運営管理機関を選べない
企業型DCでは、運営管理機関を自分で選択することはできません。
なぜなら、運営管理機関は企業が選定するため、従業員は選択肢を持てないからです。
ただし、従業員は自分で運営管理機関を選択することはできませんが、商品は自分で選択することができます。
商品を選ぶ際には、以下のポイントを考慮することが大切です。
- 運用成績
- 手数料
- リスク許容度
これらのポイントを考慮して、株式型ファンドや債券型ファンド、混合型ファンド、金融商品先物取引などの中から、自分に合った商品を選択することが重要です
また、定期的に自分の投資先の状況を確認し、必要に応じて商品の変更を検討することも大切です。
企業型DCを活用する3つのメリット
企業型DCを活用するメリットは、以下の3つです。
- 所得税と住民税が軽減される
- 運用益が非課税
- 受取時も税制優遇を受けられる
それぞれ解説します。
所得税と住民税が軽減される
企業型DCで支払った毎月の掛金は、全額所得控除されるため、所得税と住民税が軽減されます。
実際にどれくらいの節税効果があるのか、以下の条件で試算してみましょう。
- 勤務地:東京都
- 年収:600万円
- 企業型DCの掛金:毎月55,000円
企業型DCなし | 企業型DCあり | 節税額 | |
---|---|---|---|
所得税額 | 207,300円 | 164,100円 | 43,200円 |
住民税額 | 303,000円 | 260,700円 | 42,300円 |
合計 | 510,300円 | 424,800円 | 85,500円 |
上記の場合、所得税と住民税を合わせて年間で約86,000円の節税ができます。
もし、このまま企業型DCに30年間加入し続けた場合、約258万円もの節税メリットを受けられるため、節税効果は非常に高いと言えるでしょう。
節税額はその人の年収や掛金によって異なりますが、老後資産の形成をしながら、同時に節税もできるのは大きなメリットと言えます。
運用益が非課税
通常は金融商品を運用すると、運用益等に20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が課税されます。
しかし、企業型DCでの運用益は完全非課税のため、効率的に老後の資産形成ができます。
実際にどれくらいの節税効果があるのか、以下の条件で試算してみましょう。
- 企業型DCの掛金:毎月55,000円
- 運用利率:3%
- 運用期間:30年
企業型DCなし | 企業型DCあり | |
---|---|---|
積立金額 | 19,800,000円 | 19,800,000円 |
運用益 | 12,250,529円 | 12,250,529円 |
課税額 | 2,488,694円 | 0円 |
手取額 | 29,561,835円 | 32,050,529円 |
上記の場合は、通常は税金として引かれる約250万円を受け取れるため、非常に大きな節税効果があると言えます。
受取時も税制優遇を受けられる
企業型DCの受取方法には「一時金」と「年金」、「一時金と年金の併用」の3種類があり、それぞれ税制優遇を受けられます。
具体的には、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」を、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」を使うことで、全額非課税になることも少なくありません。
以上のように、企業型DCの受取方法によって、税控除に違いがあります。
受取方法を決める際には、将来の生活設計や税制上のメリット・デメリットなどを考慮し、慎重に検討しましょう。
企業型DCの加入方法をプロが解説
企業型DCを導入している企業では、従業員は原則として企業型DCに自動的に加入することになります。
なぜなら、自動加入制度の導入により、企業は従業員が退職金制度に加入することを促進することができるからです。
そのため、企業型DCを導入している企業で勤務している場合、自分から行動を起こす必要はありません。
また転職や離職をする際には、企業型DCの年金資産を持ち運ぶことができます。
ただし、転職先に企業型DCがない場合は、iDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換する必要があるため、注意してください。
iDeCoについても興味がある方は、以下の記事を参考にしてください。
まとめ 企業型DCについて
企業型DC(企業型確定拠出年金)とは、公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に、企業が従業員のために設置する年金制度の1つです。
毎月一定の金額を積み立てし、従業員はその資産を自ら運用することで、退職後に年金を受け取るための資産形成ができます。
企業型DCには、原則60歳まで掛金の引き出しができなかったり、元本割れのリスクがあったり、自分で運営管理機関を選べなかったりするデメリットもあります。
一方で、老後資金を形成しながら、所得税と住民税が軽減されだけでなく、複数の税制優遇を受けられるため、メリットの方が大きいと言えるでしょう。
また、企業型DCを導入している企業では、従業員は原則として企業型DCに自動的に加入することになるため、自分から行動を起こす必要はありません。
企業型DCを導入している企業で勤務している方は、ぜひ有効活用してください。
しかし、自分一人で毎月の掛金を決めたり、運用商品を決めたりするのは難しい方もいるでしょう。
そのような際には、一度専門家と面談してみてはいかがでしょうか。
「まずは気軽にお金のことを相談してみたい!」という方にお勧めなのが、MoneypediaのオンラインFP相談サービスです。
保険やライフプランをはじめとするお金のことをいつでも・どこでも・気軽に・何度でも専門家に相談することが出来ます。
まずは一度、ご相談されてみてはいかがでしょうか。